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活動報告

お笑いライブの非営利化をどう考えるか―若手芸人の経済的考察―

  • 2016年3月3日
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お笑いライブは非営利目的のイベントなのか?

FUNBEST代表の矢島伸男です。

今日、ある方と打ち合わせをしていまして、その時に話したことがとても印象的だったので、それを基にこの記事を書いています。

その方は、僕らと同じ芸人の立場でありながら、芸人になる前は印刷会社に10年ほど勤められていて、そこで培った経験を生かして、個人でデザインの仕事を受けているのだそうです。

私も個人事業主の身ですので、ちょっと気になったものですから、好奇心で、「仕事を請け負うときにどうやって報酬額って決めてますか?」と聞いてみました。その方は次のように答えてくれました。

「頼まれるところによります。例えば、企業が営利目的で作ってほしいなら、チラシであれば1万円からで請け負います。個人の営利目的で作ってほしいなら8千円ぐらいでやってますし、さらに非営利目的なら3千円ぐらいでやる時もあります。例えば…お笑いライブとか」

私は思わず笑ってしまいましたが、同時に「やはりな」とも思いました。お笑いライブを「非営利目的のイベント」としてカウントするあたりは、さすが芸人の感覚をお持ちの方だと感じました。

はい、そうなんです。お笑いライブって、もうほぼ「非営利目的」だと思います。もう少し別の言い方をすると、「どうしようもなく非営利になっちゃう」でしょうか。

いや、そこらへんを上手くやって、利益を出されているところもあるかもしれませんが、今年で芸歴14年目を迎える私の経験上、「いやぁ、儲かった儲かった!」なんて言ってるお笑いライブの主催者をほとんど見たことがありません。

仮に儲かっていたとしても、おそらく新卒の初任給に届くか届かないかぐらいじゃないでしょうか。それも、月に何回かライブを主催して、その収益を合算しての金額がそのぐらいってことです。そうやって生活している方も知り合いでいますが、今日はその話を詳しくしたいわけではないので割愛しますね。

個人がお笑いライブを主催するには

いや、これ本当にお笑い界のあるあるなんですけど、若手芸人って、割合でいえば99%と言っていいほどお金がないんですね。だからライブのスタッフやチラシのデザインなど、誰かに何かを手伝って貰う時に、お金を出すのが非常にシビアなんです。

また、芸人は芸人同士で依頼することが多いので、芸人Aが出るライブに芸人Bがスタッフで手伝ったりして、その代わり、芸人Bがライブに出るときは逆に芸人Aがスタッフになったり、内々で手伝いを回して、報酬額を相殺しているケースも多いです。

また、外部でスタッフを依頼することもありますが、だいたい本人の了承を得てボランティアでやってもらうか、数千円(交通費+α程度)でお願いすることが大抵だと思います。人によっては、ボランティアでやってくれる見返りとして、その人が主催するライブのチラシを折り込んでくれる、みたいな条件を付けることもあります。

当然のことながら、売れている芸人以外(どこを持って「売れている」かという線引きも非常に難しいですが…)はほとんど儲からない業界ですので、イベントで動くお金っていったら、劇場代とスタッフ代ぐらいなもんです。

あとかかるお金といえば、家のパソコンで作ったチラシ、または手書きのチラシを近くのコンビニ(ダイソーが近くにあると5円コピーがあって助かる)で何十部か刷って、何回か他のライブで折り込む時にかかるコピー代ぐらいでしょうか。もちろん、ライブ中にやるネタ(特にコント)の内容次第では、衣裳や小道具にもお金はかかります。

それらを差し引いても、メインのお金は劇場代とスタッフ代です。劇場はキャパシティにもよりますが、杉並区か中野区あたりなら、だいたい1万~3万の間ぐらいで何とかなります。新宿まで出るともう少しかかりますし、何より大手のお笑い事務所やお笑いイベント団体がほぼ独占しているので、芸人さん個人が何かライブを企画しようと思っても、なかなか取れません。

仮に劇場代が平日5時間(17~22時)で2万円、スタッフを知り合いに頼んで3千円×3人=9千円かかったとします。17時に出演者が小屋入りして、スタッフが18時に入りするパターンだと、そこから22時まで手伝って3千円ですから、時給換算だと750円です。もちろん交通費は含みません。

計算の早い人なら、もうかなり前の段階から「安すぎるだろ!」と思っていたかもしれませんが、私も含め、そこらへんは好きでやっているので、文句を言う人はあまり見たことがありません。何事も勉強…ですからね(皮肉ではありませんよ)。

かかる出費を回収する3つの方法

さて、計算に話を戻します。劇場代・スタッフ代でトータルで2万9千円かかっていますから、この出費を回収するとしたら、考えられる方法は以下の3つ。

1.出演者からノルマを払ってもらう。
2.純粋に入場料収益で黒字を出す。
3.スポンサーを募集する

「1.出演者からノルマを払ってもらう」は、インディーズライブではかなりメジャーな回収方法です。仮に先ほどのケースで考えると、芸人1組から2千円のノルマを徴収すれば、15組の出演者に出てもらうことで合計3万円、差し引き1000円の粗利が出ます。

その代わり、ノルマというのは「お客さんを呼べなかった場合のペナルティ」という役割を持っていますので、芸人さんがお客さんを読んだ場合は、その分のお金をきっちり支払わなければなりません。

「入場料1000円でチケット全額バック」という条件なら、ある芸人が5人のお客さんを呼んだ場合、5千円をその芸人に支払います。元々2千円のノルマを払って出演しているその芸人は、当初支払ったノルマ分のお金が返ってきた上で、3千円儲かったことになるわけですね。

ライブによっては、「○枚目までは全額バック、それ以降は半額バック」みたいにして、ノルマを回収した後のバック金額を減らし、イベント収益に充てているところもあります。経営上致し方ない対応だとは思いますが、芸人側がお客さんを呼ぶモチベーションにも少なからず影響するかもしれません。

「2.純粋に入場料利益で黒字を出す」は、その言葉通り、入場料だけで劇場代・スタッフ代を賄う方法です。これは、芸人さんからはノルマを徴収しない場合、または、「単独ライブ」のように主催の芸人さんだけが出演する場合がほとんどです。

仮に先ほどのケースで考えると、お客さんを入場料1000円で30人呼べば合計3万円となり、劇場代・スタッフ代を回収できます。チケットバックを支払う必要もないので、すべてが自分の取り分になります。

ただ、これには問題が2つあって、1つは、芸人さんが多数出演する場合、「ノルマが課せられていない芸人さんに、そもそも集客意欲があるのか」という点です。

要するに、ノルマがないということは、芸人サイドとしては「ノーギャラだけどネタはできる」ということになるわけです。「ノルマを支払ってライブに出る」ことに慣れている芸人さんからすると、「ノルマなし」はもうそれだけでありがたいんですよね。しかもチケットバックはありませんので、何人お客さんを呼んでも、芸人さんに入ってくるお金はゼロというわけです。

ある意味でいえば、ノルマを取られるのに比べて、出演芸人の集客意欲が低くなるために、支出分の回収が難しくなるかもしれません。実際、ノルマを払っていたとしても、集客に自信がある人はそれ以上を回収することができるので、「むしろチケットバックのあるノルマ制のライブに出たい」という芸人さんもいます。

2つ目の問題は、主催する芸人だけが出演する場合、「自分たちだけで30人の集客は見込めるのか」という点です。モクレンも過去5回、自分たちしか出ない単独ライブをやってきたわけですが、まぁ…ここだけの話、利益なんてほとんど出てないですよね(笑)。赤字になった時もありましたし。

自分たちで支出分の回収できるほどの集客が見込めない場合は、「ゲストに出演してもらう」または「有名な人にアフタートーク出演を依頼する」という最終手段があります。ただ、この場合、ゲストに支払う謝礼が追加されるので、呼ぶときは、そのゲストを呼んで何人の集客が見込めるのかを、冷静に判断しなければいけません。

「3.スポンサーを募集する」というのは、ほとんど聞いたことがありませんが、やっているところはやっているみたいです。実際に企業さんにいくらかお金を出してもらって、その分企業さんに何らかの見返り(企業宣伝用のチラシを折り込む、企業に対して何名分かの招待席を用意する、など)を与えます。

以上3つの方法がうまくいかなければ、最終的には次の方法を選ぶしかありません。

4.借金してでもイベントを成立させたいから、バイトを増やす。
(中には、「5.物販グッズを置いて利益を回収する」というツワモノもいます)

考察のまとめ~何ができるのか~

これまで述べてきたように、芸人さん(あるいはお笑いライブ主催)が1つのライブを運営するのに、どれだけの苦労があるかがよく分かると思います。「お笑いライブは大半が非営利」というのは冗談でも何でもなく、実は10年近く前からそのような状況が起きていて、お笑いブームが過ぎ去った後はさらにその傾向が強まったと感じています。

「お笑いライブの非営利化」が起きている要因は大きく3つあると私は考えています。

1.入場料が他の芸術鑑賞に比べて安すぎる(安くて500円、高くても2000円いかないはず)。
2.芸人自体がそれを「勉強代」「芸の肥やし」であると認識し、現状に満足している。
3.利益の回収が対消費者(商売相手が企業ではなく個人である)に頼らざるを得ない。

以上3つの問題をどのように解決していくべきか。その使命がFUNBESTにはあるような気がします。FUNBESTとして、このようなお笑い業界の状況を受け止め、少し生意気かもしれませんが、芸人さんへテレビ以外(学校や企業など)の表現の場を提供できるような、そのような事業を展開していきたいと思います。

そのためにも、FUNBESTとしての成功、お笑いコンビ「モクレン」としての成功は絶対条件です。これからも、我々なりの方法で、笑いによって社会に新たな価値を創造し、貢献していく決意です。